五月人形を飾る意味と武将の関係

2022年2月1日

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5月5日のこどもの日を別名「端午(たんご)の節句」と言います。誰でも一度は聞いたことがあるかと思いますが、その意味を正しく答えられる人は意外と少ないのではないでしょうか。
中国から伝わった古来の暦を元に日本独自の風習を合わせた季節の節目を表す「五節句(ごせっく)」と言われるもので、宮中では昔から1月7日、3月3日、5月5日、7月7日、9月9日に邪気を払うための行事(節句)が行なわれていました。そのうちのひとつが「端午の節句」で、端午とは5月最初の午(うま)の日という意味です。
五節句にはそれぞれ必ず象徴的な植物があります。例えば3月3日は桃の節句ですし、5月5日は菖蒲の節句とも言われます。季節の旬の植物が持つ生命力が邪気を祓い、健康長寿を導くと考えられていたからです。
雛人形は平安時代に子どもの災厄を避けるための身代わりとして置かれた人形が起源とされています。鎧兜や五月人形を飾るのは同様に子どもの身を守り、無事に健やかに成長できますように、という願いが込められているからです。

目次


  1. 菖蒲から尚武へ、武家で流行

  2. 五月人形の種類について

  3. やっぱり武将の兜が人気!

  4. イチオシ武将の兜はコレ!

  5. さいごに

菖蒲から尚武へ、武家で流行


奈良時代に宮中で始まった五節句の考え方は、医療が発達していなかった当時、体調を崩しやすい季節の変わり目に旬の果物や野菜などを食べたり、植物が持つ薬効を用いることで邪気を払い、健康を保つことができるという、現代にも通用するものです。


菖蒲というと綺麗な花を思い浮かべる方も多いと思いますが、節句に使われるのは花菖蒲ではなく、爽やかな香りがするサトイモ科の「葉菖蒲」で、芳香性の植物は邪気を祓うだけではなく、血行促進や疲労回復など健康に役立つさまざまな効果があると言われています。そのため、昔から5月5日には菖蒲湯に入る習慣があるのです。
鎌倉時代になると菖蒲の節句は、菖蒲=尚武という語呂合わせから武家社会で盛んに行われるようになっていきます。もともと梅雨に入る前のこの時期に鎧や兜を虫干ししたり、手入れを行うために部屋に飾ったりしていたこともあって、男の子の健やかな成長、立身出世を願い、幟旗や武具を屋外に飾ったり、鎧兜を飾る風習へと変化していきました。

その後、江戸時代になると節句が広く一般庶民にも浸透し、商人などの間で武家を真似て飾る「鯉のぼり」が流行していったのです。歌川広重の名所江戸百景の中にも当時の様子が描かれていますが、この頃はまだ黒い鯉が1匹だけの飾りでした。中央に見える吹き流しや幟旗は武家の節句飾りです。

1857年(安政4年)歌川広重『名所江戸百景 水道橋駿河台』(東京富士美術館所蔵)
(https://jpsearch.go.jp/item/tfam_art_db-9441)

五月人形の種類について


五月人形は大きく分けて、家の中に飾る「内飾り」と屋外に飾る「外飾り」に分けられます。
地域によって違いがありますが、内飾りは鎧兜や武者人形、子供大将などで、主に子どもを災厄から守るお守りとして、健やかな成長を願って飾るものです。一方の外飾りは鯉のぼりや吹き流し、武者の絵が描かれた幟旗などで、男子の誕生を神様や周囲に知らせると同時に魔除けの意味を持ち、立身出世の願いが込められています。

●内飾り
内飾りの代表格である鎧兜は武士を象徴する物ですが、その歴史は古く、既に古墳時代には甲冑のような物が武装に使われていたという記録が残っています。武家階級が台頭した平安時代末期には騎馬戦用に改良された大鎧が登場し、鎌倉時代以降は戦術の変化に合わせてさまざまな改良がなされていきますが、攻撃から身を守るためだけではなく、見た目の強さや不死、再生を意味するデザインを施すなど武将のおしゃれ度を表すものでもあったようです。

・鎧飾り・・・ダイナミックな魅力を持つ鎧飾りですが、細かいパーツをひとつひとつ組み合わせて作られています。その色彩の美しさや技術の素晴らしさにもぜひ注目してみてください。


・兜飾り・・・手軽に飾れることで人気急上昇中なのが兜飾りです。兜だけでもかなり豪華ですし、個性的なデザインの戦国武将の兜は見応えも十分あります。

鎧や兜は飾り方やタイプの違いでも選ぶことができます。
・平飾り・・・高さの低い平台の上に乗せて飾る飾り方
・着用飾り・・・実際に身に付けることができるもの
・高床式飾り・・・高さのある飾り台に乗せて飾る飾り方


・収納飾り・・・飾り台の中に収納できるようになっているタイプ
・ケース飾り・・・ケースの中に入れて飾るタイプ


・奉納飾り・・・戦いに使用する物ではなく、
大願成就を果たした武将が“願いが叶った”ことへの感謝の意を込めて、神社に奉納された兜と胴のみでできた装飾用の鎧で、大変美しい仕上がりが特徴です。

また、京都の貴族社会が発祥の「京甲冑」と江戸の武家社会から生まれた「江戸甲冑」があります。金箔や金物を多様した装飾が煌びやかな「京甲冑」に比べ「江戸甲冑」は落ち着いた色調で天然素材を使用した実践向きの力強い雰囲気が特徴です。

・武者人形、子供大将・・・江戸時代になって宮中行事だったひな祭りや端午の節句が一般に広がると、江戸の街中にはたくさんの人形屋が立ち並び、節句人形が大流行しました。武者人形もその頃登場したと言われています。人形を飾ることで子どもに降りかかる災厄を避け、守ってくれるものとして人気があったようです。

香蝶楼国貞,佐野喜『(端午の節句) 』(国立国会図書館所蔵)
「国立国会図書館デジタルコレクション」収録
(https://jpsearch.go.jp/item/dignl-1305289)

当時は、中国の玄宗皇帝の熱病を治し魔除けの力があるとされる鬼神、鍾馗(しょうき)や、金太郎(坂田金時)、神功皇后と武内宿禰といった、伝説や物語、歌舞伎や浄瑠璃などの演目で有名な人物の人形がよく作られていたようです。最近でも鎧兜を身に付けた金太郎などの人形があり、子供大将とも呼ばれます。


●外飾り
外飾りは節句のぼりとも言われ、鯉のぼりや武者絵のぼりなどがあります。江戸時代に登場した鯉のぼりは、中国に伝わる「鯉の滝登り」という逸話をもとに作られたもので「竜門と呼ばれる激流を登っていくことができたなら、その鯉は竜になれる」という「登竜門」という言葉の語源でもあります。つまり、子どもの健やかな成長と立身出世の願いが込められているということです。
武者絵のぼりの起源は、戦いの時に敵と味方を見分けるための「旗指物(はたさしもの)」という幟旗で、戦がなくなり平和になった江戸時代以降は、男子が誕生した目印としてお祝いの意味で飾られるようになっていきました。後に浮世絵の絵師たちが節句のぼりとして、無病息災、立身出世といった意味の絵を描くようになっていったとされています。

やっぱり武将の兜が人気!


外飾りが飾りにくい環境の家が多い昨今、兜飾りに人気が集まっています。兜も身を守るためのお守りの意味として飾ります。平飾りや着用飾り、高床式飾り、収納飾り、ケース飾りなどさまざまなタイプがありますが、まずはその構造を学びましょう。


①鍬形(くわがた)
②前立(まえたて)
③兜鉢(かぶとばち)
④吹き返し(ふきかえし)
⑤しころ
⑥忍び緒(しのびお)
⑦櫃(ひつ)
⑧ふくさ

鍬形と言われる角のような部分のデザインが特徴的で有名な戦国武将がたくさんいます。その中から特に大胆で目を引く武将をピックアップしてご紹介します。


・伊達政宗・・・細い三日月型の鍬形が特徴的。しかもあえてシンメトリーではない所がユニークです。余計なものは全て削ぎ落としたシンプルで洗練されたデザインです。


・真田幸村・・・鹿の角と六文銭がトレードマーク。険しい山道を軽々と渡る鹿は、神の使いとされていたからだそうです。また中央の六文銭は三途の川を渡るための船賃と言われていますが、何とも奇抜なデザインです。


・直江兼続・・・戦国時代に本当にこんなデザインの兜があったのか!と思うほど現代的で大胆です。この愛の字を掲げた理由については、民に対する愛を意味しているという説や上杉謙信が毘沙門天を信仰していたことから旗に「毘」と掲げていたのを真似た愛染明王の愛の意味であるという説、愛宕権現の愛の意味だとする説など諸説ありますが正確には分かっていません。

イチオシ武将の兜はコレ!


戦国武将はゲームの影響もあって数年前から人気の的ですが、その人柄やエピソードから五月人形としてぜひお勧めしたい武将の兜をご紹介します。


戦国時代を勝ち抜き、天下統一、平和を築いた武将と言えば知らない人はいないでしょう。そう、徳川家康です。子孫繁栄と長寿を表す植物のシダを用いた前立で、重要な戦の際は必ず持参した縁起の良い「吉祥兜」とも言われています。武将としては地味なイメージですが、忍耐強く努力を続けることで平和をもたらした功績は偉大です。

さいごに


子どもを災厄から守り、健康で無事に成長しますように、また立身出世しますように、という願いを込めて五月人形を飾る意味は昔から変わることなく続いてきましたが、現代では内飾りや外飾りを合わせて種類が多く、どれを選んだらいいのか迷ってしまう人も多いようです。都心の住宅では外飾りを飾るのは難しい環境だったりもしますので、ご自身の住宅環境に合わせてお好みのタイプを選ぶのがベストですが、数ある中から選ぶのはなかなか大変!とお悩みでしたら、豊富な知識を持つ節句人形アドバイザーがいるお店を訪ねてみることをお勧めします。

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※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものと異なる場合があります。予めご了承ください。


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