五月人形の脇飾りって何?

2022年3月18日

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現在「五月人形」と言われている節句飾りには実にさまざまな種類があります。屋外に飾る鯉のぼりや武者絵幟は「外飾り」、鎧兜や武者人形、子ども大将など室内に飾る物は「内飾り」と大きく分けられていますが、最近では室内用の小さな鯉のぼりや名前旗など、都市化の影響で飾ることが難しくなった屋外用の大きな飾りを室内でも飾ることができるようにアレンジした新しい飾りも登場しています。
五月人形の歴史を辿ってみると、武家の鎧兜に始まり、江戸時代になって庶民文化の影響から新たな五月人形が次々作られ、それが現代まで続いていることが分かります。
五月人形の「脇飾り」は、その名の通り主役の脇に飾られるものなのですが、江戸時代の商人たちの自由な発想から生まれたものだと考えられます。

目次


  1. 脇飾りは五月人形のアクセサリー

  2. 五月人形を大きく変えたのは江戸の商人

  3. さいごに

脇飾りは五月人形のアクセサリー



「脇飾り」には、いったいどんな物があるのだろうか…と思って調べてみたところ、小型の鯉のぼりや吹き流し、弓矢、花菖蒲、馬など、さまざまでした。さらに最近では男女ともに脇飾りとして名前旗を飾るご家庭も増えているようです。
昔は鎧飾りの周りに軍扇・陣笠・陣太鼓の三品と言われる道具や瓶子・柏餅・粽の三宝と言われるお供えなどたくさんの物を並べて飾りましたが、最近はスペースの問題で省略されることが多くなりました。
SNSに写真を投稿する際、鎧や兜、弓太刀だけでは写真映えしないという理由で華やかさを加えるために脇飾りを飾るというケースもよく聞きます。つまり、五月人形のアクセサリー的な要素だと言えます。


平安時代の宮中では毎年端午の節句に香りの強い菖蒲を使って邪気を祓い、健康長寿を祈念するための行事が行われていたことから別名菖蒲の節句とも言われました。
その後、鎌倉時代に貴族に変わって武士が権力を持つようになると菖蒲=尚武と音が同じことから武家の間で鎧兜を飾る風習が流行したのです。これが五月人形の始まりと言われています。
後継の男子が生まれると魔除けの意味も込めて、神や周囲の住民に知らせるための吹き流しや幟旗、武具を家の前に飾りました。これが、後に外飾りへと変化していきました。


菖蒲と言うと、紫色の綺麗な花が咲く植物のことだと思っている方が多いのですが、実は端午の節句に使われる菖蒲は別物です。爽やかな香りがする葉菖蒲のことで、いわゆるハーブのような植物です。
医療が発達していなかったため、疲労回復や血行促進などの薬効があるとされ、薬の代わりに用いました。端午の節句に菖蒲湯に入る習慣があるのもそのためですが、ちょうど同じ時期に花菖蒲も見頃を迎えることから、五月人形と一緒によく花菖蒲も脇飾りとして飾られるようになりました。
五月人形は子どもを災厄から守り、無病息災・立身出世を願って飾る物ですので、一緒に飾ることで、華やかさを演出するだけではなく、その意味合いをさらにパワーアップさせるのが脇飾りの役目と言えるかもしれません。

五月人形を大きく変えたのは江戸の商人


武家文化から始まったとされる五月人形の習慣ですが、身分制度があった江戸時代までは鎧兜や幟旗、武具などの実物は武家以外が飾ることは許されていませんでした。
江戸時代も半ばになると平和な世の中が長く続いたこともあり、商人たちの勢いが優勢になっていきます。節句という風習が広く庶民にも浸透するとともに、節句人形を扱う人形屋が街中に立ち並び大流行したそうです。

1857年(安政4年)歌川広重『名所江戸百景 水道橋駿河台』(東京富士美術館所蔵)
(https://jpsearch.go.jp/item/tfam_art_db-9441)

武家の吹き流しや幟旗を真似て、中国の登竜門の伝説をもとに商人たちが生み出したのが鯉のぼりです。当時は黒い鯉一匹だけでした。「鯉の滝登り」という言葉の語源にもなっているこの伝説は、現代でも立身出世の代名詞になっています。
歌川広重が描いた名所江戸百景の当時の鯉のぼりの様子を見ると、中央に武家の節句飾りの吹き流しや幟旗があるのが分かります。
そして武者人形や菖蒲太刀、浮世絵師による武者絵幟など、自由な発想で新しい五月人形が次々と生み出されました。さまざまな脇飾りもそんな中から生み出されたと推測できます。


さいごに


調べてみると、脇飾りのひとつひとつにも無病息災や健康長寿、縁起などの意味合いが込められ、一緒に飾ることでその祈念を強くする物だということが分かりました。
鎌倉時代に武家の間で始まり、その後江戸時代の商人たちによって生み出された新しい五月人形の数々は、現代まで受け継がれながら、時代の流れとともに少しずつ変化を続けています。
もちろん、その根底に子どもへの災いを祓い、健康で立派になってほしいと願う親の気持ちが込められている点は、いつの時代も変わることなくこの先もきっと続いていくことでしょう。主役を引き立てるための脇飾りですが、込められた意味合いは主役にも負けないものがあるのです。


※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものと異なる場合があります。予めご了承ください。


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