鯉のぼりはどこの国で生まれたもの?

2023年3月29日

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鯉のぼりは日本で生まれた節句飾りです。
マンションなどが多く立ち並ぶ都心ではあまり見かけなくなってしまった屋外用の大型鯉のぼりですが、田舎に行くと庭に鯉のぼりや武者絵幟を立てている家をまだ見ることができます。
昔ながらの定番の鯉のぼりは黒、赤、青が主流でしたが、最近の鯉のぼりは紫やオレンジに金彩を施した鮮やかなものも見られます。
鯉のぼりが生まれたのは江戸時代のことで、当時、武士だけが飾ることを許された鎧兜や吹流し、幟旗を真似て商人たちが作り出したのが鯉のぼりをはじめとする節句飾りや五月人形だったのです。

目次


  1. 誰でも自由に飾れる節句飾りを

  2. なぜ鯉なの?

  3. 人気ヒーローの五月人形が大流行

  4. まとめ

誰でも自由に飾れる節句飾りを


徳川家康が戦国時代に終止符を打ち、戦の無い江戸時代が始まったのは1603年のことです。それまで権力を誇っていた武士は、260年余りもの平和な時代が続いたせいで徐々に衰退していきます。
一方で、歌舞伎や文楽、浮世絵、御伽草子など、さまざまな庶民文化が盛んになり、経済も活発になったことから商人が力を持つようになっていきました。
菖蒲の節句に武士だけが飾ることができた武具や鎧兜、吹流し、幟旗を、一般庶民も自由に飾ることができるように新しく考案されたのが、鯉のぼりや武者絵幟、金太郎や桃太郎、鍾馗などの五月人形だったのです。
浮世絵師が描く鯉のぼりや武者絵飾りをはじめ、五月人形や雛人形などの節句人形を扱うお店が江戸の町中にたくさんできたそうです。東京の日本橋や浅草橋界隈には現在でもその空気が感じられる場所が残っています。

1857年(安政4年)歌川広重『名所江戸百景 水道橋駿河台』(東京富士美術館所蔵)
(https://jpsearch.go.jp/item/tfam_art_db-9441)

なぜ鯉なの?


江戸の商人が鯉のぼりを生み出した社会背景は分かりましたが、なぜ鯉だったのでしょう?
現代では鯉と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは色が綺麗な錦鯉だと思いますが、実は鯉のぼりが生まれた江戸時代には色の黒い真鯉だけしかいませんでした。
鯉自体は千年以上前に中国などから入ってきた外来種で、もともとは色が黒いのです。
では、なぜ他の魚ではなく鯉なのか、不思議に思いますよね。
古来、日本は文化的にも優れた大国であった中国からさまざまな影響を受けていました。
その中で“大河の急流を登り切ることができた鯉は龍になることができる”という『登竜門伝説』をもとに、江戸の商人たちが武士に対抗する意味を込めて、吹流しに鯉の絵を描いたのだと言われています。
立身出世を意味する「登竜門」という言葉もこの伝説から生まれた言葉で、子どもの将来に夢を託すことにも繋がるため、五月人形のモチーフとして好んで使われるようになったようです。
同じ頃、新潟の山間部で食用として飼われていた真鯉の中で色が綺麗なものが出現し、その後長い年月をかけて、さまざまな色の美しい錦鯉が開発されました。
明治時代になると錦鯉が世の中に流通するようになり、それに合わせて真鯉だけではなく赤や青の鯉のぼりが登場し、徐々にカラフルになっていったようです。


人気ヒーローの五月人形が大流行


江戸時代に鯉のぼりと一緒に生み出された金太郎や桃太郎、鍾馗などの五月人形は、今でも鎧兜に続く人気のアイテムですが、当時は子どもだけのものではなく、どちらかというと大人の間で流行していたようです。
歌舞伎役者が演じる主人公の浮世絵は現代のブロマイドのような物だと言われていますので、それを題材にした五月人形は今のフィギアのような物だったのかもしれません。
一般的に童話の主人公だと思われている金太郎や桃太郎も、江戸時代は歌舞伎の演目として人気があったもので、現代でも歌舞伎で演じられています。
また、鍾馗は中国の伝説に出てくる架空の人物で、疫病退治や学業成就にご利益があるとされていることから、武者絵幟や五月人形のモチーフとして昔から好んで使われてきた縁起の良い神様なのです。



まとめ


今から300年近く前に日本で花開いた江戸文化は、芸術性も高く、現代にも通用するほど豊かな文化だったと言われています。
それは、それまで武士の支配下にいた商人がさまざまな情報を取り入れて、自由な発想で作り上げた珠玉の作品の数々で、
中には時代の流れとともに消えていったものもありますが、浮世絵に代表される日本の伝統的工芸品はいまだに世界中で高い評価を受けています。
鯉のぼりをはじめとする五月人形などの節句人形は、日本独自の時代背景から生まれた日本ならではの独創性が高い自慢できる文化だと言えます。


※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものと異なる場合があります。予めご了承ください。


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